トム・ウェイツ、“アイランド・レコード三部作”に続く2作の最新リマスター盤が本日発売、アナログ盤はヨーロッパ以外では初リリース

BY

※本ページにはアフィリエイト広告(PR)が含まれます

洋楽ニュース

唯一無二の歌声と音楽表現であらゆる世代に影響を与え続ける孤高のシンガー・ソングライター、Tom Waits(トム・ウェイツ)。アイランド・レコード時代の5枚のアルバムの最新リマスター音源として、9月1日にリリースされた『Swordfishtrombones(ソードフィッシュトロンボーン)』(1983)、『Rain Dogs(レイン・ドッグ)』(1985)、『Franks Wild Years(フランクス・ワイルド・イヤーズ)』(1987)の3タイトルに続き、1992年リリースの『Bone Machine(ボーン・マシーン)』と1993年リリースの『The Black Rider(ブラック・ライダー)』の2タイトルが発売されました。

Photo Credit Jay BlakesbergPhoto Credit Jay Blakesberg

一連のリイシューはトム・ウェイツ自ら、キャスリーン・ブレナンと共に監修。バーニー・グランドマン・マスタリングのクリス・ベルマンによって、ウェイツの長年のオーディオ・エンジニアであるカール・ダーフラーの監督のもと、新たにオリジナル・テープからリマスタリングされました。

『ボーン・マシーン』は、キース・リチャーズ、レス・クレイプール、デイヴィッド・イダルゴなどが参加し、ウェイツ自らユニークな打楽器を駆使した独創的な傑作で、グラミー賞「最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム」を受賞した。この9月に発売30周年を迎えた『ブラック・ライダー』は、1990年に独ハンブルクで初演されたロバート・ウィルソン演出/ウィリアム・S・バロウズ脚本の同名演劇のためにウェイツが書いた音楽を収録した作品。

この2作のアナログ盤はヨーロッパ以外では発売されなかったため、世界のほとんどの地域において初リリースとなります。
試聴・購入はこちら

■10月6日発売アルバム紹介(公式資料より)

トム・ウェイツ『ボーン・マシーン』

●『ボーン・マシーン』
『ボーン・マシーン』は、陳腐な言い方をすれば、大当たりした――1992年にリリースされて世界的に称賛され、グラミー賞「最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム」を受賞した。ウェイツはアルバム全16曲の半分をブレナンや、スペシャル・ゲストのデイヴィッド・イダルゴやレス・クレイプール(ベース)やキース・リチャーズ(「ザット・フィール」を共作)と共作した。

カリフォルニア州コタッティのプレーリー・サン・スタジオ――ウェイツによると“セメントの床と温水ヒーターしかない”という場所――でレコーディングされたこのアルバムで、ウェイツはサウンドスケープとライティング・テクニックを徹底的に設計し直している。楽曲はどれも作曲されたのではない――それらのサウンドはより鍛えられ、槌で打ち伸ばされ、のみで彫られ、曲げられている。ウェイツとブレナンは、このアルバムを、土やひび割れた舗道、折れた木の枝や鳥の歌から作りあげたようだ。彼らがより農村部である北カリフォルニアに引っ越したことも、このアルバムのアイデアや音楽に大きく影響した。

アルバム評の一部:ミュージシャン誌“骨張った傑作”。ニューヨークタイムズ紙“まさに並外れている”。ローリングストーン誌“崇高な切望があふれている”。シカゴ・トリビューン紙“あふれんばかりの色彩と感情”。ビルボード誌“この年の最高のアルバムのうちの一枚”。ワシントン・ポスト紙“彼の最高傑作のアルバム”。メロディ・メイカー誌“ごつごつした栄光”。ニュー・ミュージカル・エクスプレス誌“怖くて、悲しげで、ぞっとさせる。そしてたやすくトムの最高傑作になる”。セレクト誌“今までで最高のトム・ウェイツの作品であり、彼の「百年の孤独」だ*。

訳注*:「百年の孤独」――ノーベル賞を受賞したガルシア=マルケスの著書。

『ボーン・マシーン』は音の彫刻だ。カタカタ音を立てる棒や、錆びついた農機具、息苦しそうな悪魔、新聞の切り抜き、雷が落ちるドシンという音、聖書神話、幽霊、行進する骸骨、狂った男、殺人者、音信不通だった友人、小さな子どもたち、小雨などで作られている。いくつもの祈りや短編小説や抗議や悲劇の集まりでもある。その音楽は、聴く者の心を捕えて放さず、激しく揺さぶり、頭を撫でて、溝に突き落とし、ほくそ笑み、くすぐり、不平を言い、慰めてくれる。そこには、正当な憤りや、厭世観や、辛辣なジャーナリズムもある。

ウェイツは『ボーン・マシーン』の楽曲のことを“小さな聴く映画”だと言った。彼はときどき楽曲全体をパーカッションのパターンから書く。その際は、ずらりと並んだ、手作りの楽器を演奏するのだ。その中のひとつである “謎の物体”は、基本的には大きな鉄の十字架で、バールでできている。それは、ぶら下げておく何かしらの金属を探してできたものだった。トムは説明してくれた。“リズムに対する強い衝動を感じることがよくあるけど、それは自分の世界とは違うものだ。僕はただ、何かを選んで、それを叩く。もし、その音が気に入れば、それでいく。ときには、僕の馬鹿みたいなやり方が、音楽の役に立ったりする”

死ぬべき運命は、繰り返し登場するテーマで、「ダート・イン・ザ・グラウンド」から「すべてを脱ぎ捨てろ」や「海が私を嫌っている」や「ジーザスのおでまし」に表れている。「大人になんかなるものか」はやんちゃな子ども時代への賛歌で、「ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド」は悲嘆に暮れる告白めいたクラッシックなバラードだ。この楽曲は、2018年にジョーン・バエズが美しくカバーしてアルバム・タイトル曲に使用した。ウェイツは言った。“そう、最後には、対処しなくてはならないテーマだ。人によっては、他の人たちよりも早く対処するけど、いずれは対処することになる。最終的には、僕ら全員が、列に並んで悪魔のご機嫌を取るはめになる”。

メディアは、このアルバムはウェイツの5年ぶりのアルバムだと書いたが、実のところ、ウェイツは『フランクス・ワイルド・イヤーズ』のリリース以来、大小様々な多くのプロジェクトで極端に忙しかったのだ――『ブラック・ライダー』の制作とその半分をレコーディングすることから、ジム・ジャームッシュの映画のほぼインストゥルメンタルの感動的なサウンドトラック・アルバム『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1992)にいたるまで。『ボーン・マシーン』によってウェイツは、今の時代で、もっとも独創性があって精力的なアーティストの一人としての立場をいっそう確かなものにした。そしてさらに大胆な音楽が生みだされることを予感させた。

YouTubeTom Waits – “Goin’ Out West” – YouTube

YouTubeTom Waits – “I Don’t Wanna Grow Up” – YouTube

トム・ウェイツ『ブラック・ライダー』

●『ブラック・ライダー』
『ブラック・ライダー』は、『フランクス・ワイルド・イヤーズ』の次のプロジェクトで、3人の非凡な人物によるアートの非凡な融合である。その3人とは、ウェイツと、実験的なディレクター、ロバート・ウィルソンと、伝説的な作家である故ウィリアム・S・バロウズだ(注:『ブラック・ライダー』の音楽は1988~89年に書かれ、1989年と1993年にレコーディングされ、アルバムのリリースは1993年だった)。

『ブラック・ライダー』は、19世紀のドイツもしくはボヘミアの、悪魔と契約した若者についての民話(1821年カール・マリア・フォン・ウェーバー作の有名なオペラ“魔弾の射手”)が下地になっている。ウェイツがこれ以上ないほどにシュールで遊び心一杯に、音楽的にねじ曲げたアルバムだ。思い浮かべてほしいのは、1929年のベルリンのキャバレーが、“フランケンシュタイン”と合わさって、映画監督F・W・ムルナウの映画のセットが歌えたらどうなるかだ。2時間半におよぶ、この同名の寓話的ミュージカル(ウィルソンはこれをオペラだと言う)は、1990年3月31日にドイツ、ハンブルクのタリア劇場で初めて上演された。ヨーロッパでは今でも定番の劇だ。ウェイツは歌っておらず、プロデュースにも参加していない。キャストは11人で(マリアンヌ・フェイスフルは「Pegleg」――悪魔の役――を、2004年のウィルソンによるリバイバル・ワールド・ツアーで演じた)、アメリカ、カナダ、オーストラリアと各地で上演された。

フィリップ・グラスのオペラ『浜辺のアインシュタイン』を上演したことで有名なウィルソンは、『ブラック・ライダー』の音楽と作詞のほとんどのためにウェイツを探しだした。バロウズは、3つの楽曲の作詞を担当し、脚本を書いた。ウェイツはハンブルクに引っ越し、長年彼のベーシストであるマルチ・インストゥルメンタリストのグレッグ・コーエンと、ミュージック・ファクトリー・スタジオのゲルト・ベスラーとコラボレートした。

ウィルソンはインタビューで言った。“トム・ウェイツが歌うのを聴くのが好きだ。彼の中にある深い音楽センスが私の琴線に触れ、大いに感動させる”。

ウェイツにとって、これは断ることができないオファーだった。“ウィルソンの舞台イメージは”ウェイツは言った。“窓の向こうの、埃をかぶったような美しさを見させてくれて、それが僕の目や耳を永遠に変えた”。

奇妙で無鉄砲な、この冒険的試みによる音楽の成果は、1989年にハンブルクで半分がレコーディングされ、もう半分がカリフォルニア州コタッティにあるプレーリー・サン・スタジオでレコーディングされた。批評家たちは困惑したようだった。注目すべき例外はローリングストーン誌で、こう書いていた。“このアルバムの楽曲は、古くなってガタついたティルト・ア・ホワール*に乗るような、ぞっとする興奮をもたらす”、“つむじ曲がりで、おかしなメロディばかりだ”。ニューヨークタイムズ紙いわく、『ブラック・ライダー』は、“ドイツ表現主義と日本の歌舞伎と、ミュージカル・コメディや無声映画のピエロなどのアメリカのヴォードヴィルとを楽しく融合させたもののようだ”。2020年に、このアルバムは、ミシガン大学の学生の一人ジェイコブ・アーサーによって博士論文のテーマになった。

訳注*:ティルト・ア・ホワール――遊園地の回転遊具の一種。

『ブラック・ライダー』は、1時間近くもある長いウサギの巣穴で、気味の悪い語りや、気の触れた謝肉祭、はかないバラード、著者自身とウェイツによるバロウズの詩の不気味な朗読があり、インストゥルメンタルの楽曲もある。“The Devil’s Rhubato ”と呼ばれる“ハウス・バンド”が、ホルン、ヴィオラ、チェロ、オッドボール・キーボード、汽笛、コントラバスーン、不吉なバスクラリネットを自由に使っている。音楽の特色は、両極端な、胸を打つセレナーデ「ザ・ブライアー・アンド・ザ・ローズ」から、バロウズの薄気味悪い「T・エイント・ノー・シン」まで様々だ。「T・エイント・ノー・シン」は、ウェイツがこのプロジェクトに取り組むきっかけとなった歌詞だ。“皮膚を脱いで骨の姿だけで踊るのは 罪にならない”

YouTubeTom Waits – “The Briar And The Rose” – YouTube

YouTubeTom Waits – “‘Tain’t No Sin” – YouTube

■商品情報
各2,750円(税込)/日本盤のみSHM-CD仕様
試聴・購入
2023年9月1日発売
UICY-16172『ソードフィッシュトロンボーン(リマスター)』(Swordfishtrombones)
UICY-16173『レイン・ドッグ(リマスター)』(Rain Dogs)
UICY-16174『フランクス・ワイルド・イヤーズ(リマスター)』(Franks Wild Years)
2023年10月6日発売
UICY-16175『ボーン・マシーン(リマスター)』(Bone Machine)
UICY-16176『ブラック・ライダー(リマスター)』(The Black Rider)

WRITER

洋楽まっぷ編集部

洋楽まっぷ編集部が70年代から最新の洋楽までヒット曲、また幅広いジャンルから厳選した情報をお届け致します。

人気記事