
テイラー・スウィフトの12作目となるスタジオ・アルバム『The Life of a Showgirl』がリリースされ、全米での売上が話題となっています。
初日だけで270万枚(フィジカル+デジタルダウンロード)を販売し、今年全米で最も売れたアルバムに。さらに翌日には300万枚を記録し、全米音楽史上最速で300万枚のセールス記録を樹立しました(※World Music Awards調べ)。
この結果を受けて現在、発売初週に米国で最も売れたアルバムとされるアデル『25』の記録を超えるか注目されています。
そこで今回は『The Life of a Showgirl』を除き、これまでに発売初週に米国で最も売れたアルバムを10作品を振り返って見たいと思います。
全米歴代アルバム初週売上10選
Adele『25』
2015年リリース。初週売上約338万枚。アデルの3枚目のスタジオ・アルバム。前作『21』は全世界で3,100万枚、米国だけでも1,200万枚以上を売り上げ、グラミー賞主要部門を総なめにした“社会現象級”のアルバムだったこともあり、『25』にも期待がかかっていました。
先行してリリースされたシングル「Hello」は初週で100万ダウンロードを突破し、ミュージック・ビデオも公開24時間で当時としては異例の2,700万再生を記録するなど大ヒットしたことでアルバムへの期待がさらに膨らみ、結果的にダウンロードやストリーミングではなく、フィジカルリリースへの関心を新たに促し、音楽業界に影響を与えたことで高く評価されました。
既にSpotifyやApple Musicといった定額制ストリーミングも主流となり始めていましたが、フィジカルにこだわり配信されず、CDやダウンロード購入に限定されていたことも初動セールスを伸ばした要因のひとつかもしれません。
NSYNC『No Strings Attached』
2000年リリース。初週売上約240万枚。イン・シンクの3枚目のスタジオ・アルバム。
CD全盛期といえる時期で、米国でのボーイズグループ・ブームがピークに達していた時期でもあります。1999年にはバックストリート・ボーイズが『Millennium』で大成功を収めたこともあり、イン・シンクにも期待がかかっていました。
さらにマネージャー兼プロデューサーのルー・パールマンと契約トラブルを起こし、訴訟を経てジャイヴ・レコードへ移籍したという経緯も大きく報道されていたため、アルバムのタイトルが「No Strings Attached(糸のついていない=操られていない)」としたことで独立の象徴をわかりやすく伝えたことも影響したと見られ、シングル「Bye Bye Bye」、「It's Gonna Be Me」、「This I Promise You」も立て続けにヒットしました。最終的には米国だけで1,300万枚近く売り上げています。
時代的なこともありますが、深夜販売を開始した店舗に並ぶティーンファンの様子や、夜明け前から並び、CDを抱えて泣き出すティーンの様子などはニュースでも報じられたようです。
Taylor Swift『The Tortured Poets Department』
2024年リリース。初週売上約191万枚。テイラー・スウィフトの11枚目のスタジオ・アルバム。
テイラー・スウィフトは米国での初動が強いのはお馴染みになっていて、古くは『Speak Now』、『Red』、『1989』も発売初週で100万枚以上を売り上げています。つまり多くのファンが発売されたらすぐに購入するというのが定番になっているんですが、『The Tortured Poets Department』はCD・ヴィニール(レコード)・デジタルといった多形態での展開および限定仕様を活用しており、特にレコード売上が非常に高かったことが言及されています。
加えて社会現象となったコンサート・ツアー『The Eras Tour』の真っ最中だったことも購入意欲にプラスに働いた可能性も。発売時期はちょうどヨーロッパ公演に向けた時期でしたが、米国でも余韻消費として影響があったように思います。
NSYNC『Celebrity』
2001年リリース。初週売上約188万枚。イン・シンクの4枚目にして最後のスタジオ・アルバム。
イン・シンクは当時アメリカ最大のボーイズグループとされていたこともあり、『No Strings Attached』の勢いをつなげたままファンを保ったことで、セールスにつなげたようです。加えて複数バージョンのジャケットを出していたことでファンが複数購入したことも売上を大きく伸ばした要因と言えます。最終的には500万枚程度のセールスの落ち着いているため、前作よりは総合的には大きく売り上げを落としています。
Eminem『The Marshall Mathers LP』
2000年リリース。初週売上約176万枚。エミネムの3枚目のスタジオ・アルバム。
前作『The Slim Shady LP』は米国だけで700万枚以上売り上げ、グラミー賞で最優秀ラップ・アルバム賞を受賞したこともあり、次の作品への期待がかかっていました。加えて先行シングルとなった「The Real Slim Shady」はミュージック・ビデオがMTVでヘビーローテーションされ、コメディ性と過激さで爆発的な人気を獲得。暴力的・挑発的・風刺的な歌詞も話題となったことでアルバムへの期待が一気に膨らんだことも要因のひとつと言えます。
1990年代後半から2000年代前半はCD市場の全盛期で、話題作となれば発売初週に何百万人ものリスナーが店頭に押し寄せることも珍しくありませんでした。こうした背景が重なったことがセールスにつながったと言えます。
Backstreet Boys『Black & Blue』
2000年リリース。初週売上約159万枚。バックストリート・ボーイズの4枚目のスタジオ・アルバム。
先述の通り前作『Millennium』が大成功したことが影響していますが、それだけではなく米国でのボーイズグループ・ブームから「バックストリート・ボーイズ VS イン・シンク」のような構図が出来上がり、熱心なファンが発売日に一斉にCDショップへ向かうという現象が起こりました。
先行シングルとなった「Shape of My Heart」はラジオでのヘビープレイ、MTVでの大量オンエア、全米トップ10入りと十分な話題性で初動セールスを後押ししました。『Millennium』は米国だけで1,000万枚を突破するほどの大ヒットでしたが、『Black & Blue』は約600万枚。それでも十分すごい数字です。世界的に見れば3作連続で1,000万枚突破という快挙も達成しています。
Eminem『Encore』
2004年リリース。初週売上約158万枚。エミネムの5枚目のスタジオ・アルバム。
エミネムの人気はすさまじく、後ほど登場するアルバムも含め3作連続で初週100万枚突破を達成しました。発売前にはインターネットに流出してしまい、急遽5日前倒ししたことが逆にという熱狂的な購買行動を生んだと言えます。一般論だと『The Marshall Mathers LP』がピークならその後の作品は落ち込んでいくものだと思いますが、『Encore』は前作を上回りました。
エミネムは世間的にも関心が高く「最も注目されるラッパー」の座を維持していたこともありますが、先行シングル「Just Lose It」のミュージック・ビデオがマイケル・ジャクソンのパロディで大きな論争を巻き起こし、賛否両論を含めて注目度が高まりました。この曲は全米1位を獲得した「Lose Yourself」以来2年ぶりにトップ10入りを果たしています。
Taylor Swift『1989 (Taylor's Version)』
2023年リリース。初週売上約136万枚。テイラー・スウィフトの4枚目となる再録音アルバム。
テイラーズ・バージョンのシリーズで唯一初動100万枚を突破しました。そもそも『1989』はテイラー最大のヒット作であったこともあって、「あの名盤を再び聴ける」として発売前から注目されていました。
ファンは旧盤ではなくテイラーズ・バージョンを買うことで彼女をサポートするという意識も強く、購買行動が数字に直結。さらにフィジカル面で多数の限定バリエーションが用意されました。特に主要な形態だけでも5~6種類以上あり、レコードはターゲット限定色や独占販売版が複数出され、ファンが複数枚購入する動きが顕著だったと言えます。
加えてコンサート・ツアー『The Eras Tour』の真っ最中だったことも購入意欲にプラスに働いたと言えそうです。
Eminem『The Eminem Show』
2002年リリース。初週売上約132万枚。エミネムの4枚目のスタジオ・アルバム。
前作『The Marshall Mathers LP』が米国だけで1,500万枚近く売り上げたことで商業面でエミネム全盛期に突入。先行シングル「Without Me」は全米2位と当時の最高位をマークし、勢いに拍車をかけました。
2002年はまだiTunesやストリーミングが本格化しておらず、音楽はまだまだCD購入が中心。発売初週に多くのファンが店頭に押し寄せたことは容易に想像がつきます。
Britney Spears『Oops!... I Did It Again』
2000年リリース。初週売上約132万枚。ブリトニー・スピアーズの2枚目のスタジオ・アルバム。
デビュー作となった前作『…Baby One More Time』の大成功を受けて世界的にも一気に人気を集めたブリトニー・スピアーズ。雑誌、テレビ、広告などでも徹底的に露出し、ティーンアイドルの代表格として認知されていました。
ティーンポップ黄金期、バックストリート・ボーイズやイン・シンクと同じジャイヴ・レコードからのリリース、マックス・マーティンのプロデュースと話題性も抜群な中でリリースされた先行シングル「Oops!... I Did It Again」は大きな話題となり、ラジオ・MTVで大量オンエアされたことも影響していると言えます。
初週売上100万枚超えはまだまだある
ここまでの結果を見ていくと、初週売上の記録は特定のアーティストに偏る傾向があるように感じられます。ただ、他にも50セント『The Massacre (2005)』やアッシャー『Confessions (2004)』、リンプ・ビズキット『Chocolate Starfish and the Hot Dog Flavored Water (2000)』、レディー・ガガ『Born This Way (2011)』なども初週で100万枚を突破しています。
特に1990年代後半から2000年代前半にかけてはCD市場が最盛期で、こうした大規模な初週売上が目立ちやすかった時期といえるかもしれません。一方で、複数バージョンを展開して売上を伸ばす戦略をとるケースもあり、純粋な購入者数で見るとまた違った姿が浮かび上がる可能性もあります。
そんな中、テイラー・スウィフトの12作目となるスタジオ・アルバム『The Life of a Showgirl』は先週の通り既に300万枚を突破しているという報道もあるため、正規の結果次第では歴代首位の記録となる可能性は十分にあります。
フィジカルセールスが伸ばしにくい今の時代において、この水準に到達していること自体が非常に注目されるところ。
さらに、全米アルバム・チャートのビルボード200ではセールスに加えてストリーミングやデジタルシングルの換算ユニットも合算されるため、『The Life of a Showgirl』が歴代最高ユニット数を記録する可能性についても期待が集まっています。
以上、全米歴代アルバム初週売上の代表的な例を振り返ってみました。