前作『Good Kid, M.A.A.D City(グッド・キッド、マッド・シティー)』から3年後のアルバムである本作。
1stアルバム『Section 80(セクション80)』は本という形で、2ndアルバム『Good Kid, M.A.A.D City』は映画で、今回のアルバムは詩での表現が芸術性を醸し出している。
というのもブックレットの中に「A Blank Letter by Kendrick Lamar」と読みとることのできる点字が隠されており、Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)自身によると、
これが「アルバムの正しいフル・タイトル」であるという。
当初、アルバムタイトルは「Tu Pimp a Caterpillar(トゥ・ピンプ・ア・キャタピラー)」と名付けられ、省略すれば
「Tu.P.A.C(2Pac)」となる。
そして、このアルバムの最後のトラック「Mortal Man」では、2Pacのインタビューを引用し、最後にそのメッセージを込めることにより、最終的に現在のアルバム名に変更した。
「Butterfly(バタフライ)」に変更した理由についてケンドリック・ラマー自身は、
「人生の輝きを見せたかったけど、Pimp(ピンプ)という言葉は非常に攻撃的で、それはいくつかのことを表してる。もう一つの理由は、業界に誘惑されていないっていう意味もある。」
と口数は少ないながらに含みのある言葉を語っている。
そして、アルバムの1曲目である『Wesley's Theory(ウェスリーズ・セオリー)』。
客演としてGeorge Clinton(ジョージ・クリントン)とThundercat(サンダーキャット)が参加し、しょっぱなから古今のスターが交わる。
この2人の参加はプロデューサーであるSteven Ellison(スティーヴン・エリソン)の提案だという。イントロの印象的なフレーズは、Boris Gardiner(ボリス・ガーディナー)が1973年にリリースした「Every Nigger is a Star(エブリ・ニガー・イズ・ア・スター)」をサンプリングしている。
また、タイトルは2010年に脱税で実刑判決を受けたWesley Snipesから引用。
ケンドリック・ラマーは、
「お気に入りのレコードの一つだ。歌詞についてはお金を得たときに、学校では教わらないことについていくつか書いている。」
と自身のバックグラウンドを強く意識したコメントをしている。
Kendrick Lamar - Wesley's Theory - YouTube
この他にも、3曲目『King Kunta(キングクンタ)』で、Mausberg(マウスバーグ)が2000年にリリースした「Get Nekkid(ゲット・ネキッド)」、Michael Jackson(マイケル・ジャクソン)が1988年にリリースした「Smooth Criminal(スムース・クリミナル)」、James Brown(ジェームス・ブラウン)が1974年にリリースした「The Payback(ザ・ペイバック)」、Ahmad(アーマッド)が1994年にリリースした「We Want the Funk(ウィー・ウォント・ザ・ファンク)」の4曲をサンプリングするなど、
アルバム全体を通じて、強いメッセージを込めた『HIPHOPにおけるサンプリング』を巧みに使い、そこにジャズ色の強いトラックが上手く融合し、ケンドリック自身の内面性と、社会に対する啓示を芸術に昇華している。
■ To Pimp a Butterfly トラックリスト
1. Wesley's Theory (ft. George Clinton & Thundercat)
2. For Free? (Interlude)
3. King Kunta
4. Institutionalized (ft. Bilal, Anna Wise & Snoop Dogg)
5. These Walls (ft. Bilal, Anna Wise & Thundercat)
6. U
7. Alright
8. For Sale? (Interlude)
9. Momma
10. Hood Politics
11. How Much a Dollar Cost (ft. James Fauntleroy & Ronald Isley)
12. Complexion (A Zulu Love) (ft. Rapsody)
13. The Blacker the Berry
14. You Ain't Gotta Lie (Momma Said)
15. I
16. Mortal Man