90年代に日本でヒットを連発し大ブームとなった「スウェディッシュ・ポップ」。
90年代の洋楽はスウェーデン出身のアーティストが次々と来日してはプロモーションを行い、ヒット曲を誕生させていました。
「スウェディッシュ・ポップ」という言葉そのものはABBA(アバ)などを含む70年代にも起きたスウェーデン出身アーティストの世界的ブームも含まれますが、今回は90年代に絞り、特に人気のあった3組を取り上げ、かつてのヒット曲を懐かしむとともに現在の活動についても掘り下げていこうと思います。
① The Cardigans(ザ・カーディガンズ)
The Cardigans(ザ・カーディガンズ)は1992年に結成されたバンドで、ボーカルのNina Persson(ニーナ・パーション)の特徴的な歌声がアコースティックなロックサウンドにマッチし日本で大ブレイクを果たします。
90年代にヒットしたThe Cardigans代表曲
The Cardigans - Carnival - YouTube
Carnival(カーニヴァル)は、2枚目のスタジオ・アルバム「Life(ライフ)」からの先行シングル。日本ではこの曲のヒットと共にアルバムが大ヒットし、ダブルプラチナ認定を受けています。オリコンチャートでは13位まで上昇し、地元スウェーデンの最高位である20位を大きく上回りました。ただヒットしたのは日本だけではなく、イギリスでもスマッシュヒットとなり全世界でのトータルセールスは150万枚を記録します。
アルバム「Life」はメランコリックな要素を感じさせるのに圧倒的にアコースティックなポップさがある作品で、すべての曲が同じ世界観に見事に収まっている完成度の高いアルバムです。反対にこういった世界観をひとつのアルバムに収めてしまう場合、これらを進化させるのは容易ではありません。どうしても似たような作品になってしまいがちなんですが、カーディガンズはサウンド面で進化させました。それが次のアルバム「First Band on the Moon(ファースト・バンド・オン・ザ・ムーン)」です。
「Life」をヒットさせたことでマーキュリー・レコードと契約する事ができたカーディガンズは、「First Band on the Moon」で世界デビューを果たします。プロデューサーは変わらずTore Johansson(トーレ・ヨハンソン)でしたが、前作よりも解放的になったサウンドのおかげでよりポップで伝わりやすい音楽となります。その先行シングルとなったのが「Lovefool(ラヴフール)」です。
The Cardigans - Lovefool - YouTube
なんとこの曲、日本だけではなく世界的な成功となります。全英チャートでは最高位となる2位を記録し、ビルボードのメインストリームトップ40で1位を獲得。ニュージーランドでも1位を獲得し、地元スウェーデンよりも高いチャートアクションとなりました。
アルバムもヒットし、日本では前作に続き2枚目のダブルプラチナを獲得。全世界でのトータルセールスは250万枚を記録しました。ただやはりサウンド面の進化が進んでも前作と似たような構成であったことは否めず、バンドのスタイルを世界に紹介して受け入れられた、という結果にも見えます。ここで大きく方向転換をせざるを得なかったのはバンドが望んだことなのかはわかりませんが、この結果4枚目となるアルバム「Gran Turismo(グラン・ツーリスモ)」は日本で先行発売されたにもかかわらず大きくセールスを落とします。
カーディガンズが日本で最後にヒットさせたシングルが「My Favourite Game(マイ・フェイヴァリット・ゲーム)」。
The Cardigans - My Favourite Game - YouTube
この曲を知らない人でも、イントロは聴いたことがある方も多いと思います。あまりにも特徴的で1度聴いたらなかなか忘れられません。
この曲が先行シングルとしてリリースされ、過去の2枚のアルバムとは大きく違うということを見せつけました。この結果セールス面においてどういった結果になったかというと、日本ではブームの終焉時期であったこともあり大きなヒットとはなりませんでした。しかし地元スウェーデンでは初の1位を獲得し、イギリスでもヒット。結果的にこのアルバムはカーディガンズの中で最も売れたアルバムになったんです。
より歪みの多いシリアスでレトロなサウンドにシフトしたことが成功した国とそうではない国で大きく分かれました。しかし今作のヒットはバンドにとって新たな方向性を見出したように見られます。
The Cardigansのその後の活動と現在
カーディガンズはその後2枚のスタジオ・アルバムをリリースしており、最新作は2005年リリースの「Super Extra Gravity(スーパー・エクストラ・グラヴィティ)」。2008年にはコンピレーション・アルバム「Best Of(ベスト・オブ)」をリリースしています。
その後2018年に行われたツアーを宣伝するためのインタビューで、ボーカルのニーナは「カーディガンズのレコードはもう作らないだろうと確信しているけど、楽しいと感じる限りできる限り小さなツアーやショーを続けていく」と語っています。
ニーナは2014年にソロ・アルバムをリリースしており、解散こそしないものの、それぞれ個人のプロジェクトをこなしながら、近年はライヴ活動のみを行うようにもなってきています。
ほぼすべての楽曲を手掛けたPeter Svensson(ピーター・スヴェンソン)が正式に脱退を明言していないものの、戻ってこないことがニーナがあかしており、彼が不在であることからもう新曲を作ることはないだろうと述べていますが、残ったメンバーで不定期ながらもライヴ活動は行っているようです。
ピーター・スヴェンソンはソングライター、プロデューサーとしての地位を確立し、Ariana Grande(アリアナ・グランデ)、The Weeknd(ザ・ウィークエンド)などの楽曲で参加するなど幅広く活動しています。
② Meja(メイヤ)
カーディガンズと共に90年代の日本の洋楽スウェディッシュ・ポップブームを牽引したのがMeja(メイヤ)。
90年代にヒットしたMeja代表曲
メイヤは1993年にLegacy of Sound(レガシー・オブ・サウンド)というダンスプロジェクトでボーカルとしてデビューしており、日本でのきっかけを掴んだ「How Crazy Are You?(邦題:クレイジー)」はソロデビュー曲でした。今でこそ少ないですが、当時はFMでのヘヴィーローテーションによってヒットする曲もあり、今作もラジオ発信での人気となりました。
Meja - How Crazy Are You? - YouTube
今作が収録されたソロデビューアルバム「Meja(メイヤ)」は、スウェーデンでは29位と失敗と言える結果となりましたが、日本での人気によってアルバムは60万枚を売り上げました。そしてよりアコースティックさを前面に出したアルバム「Seven Sisters(セヴン・シスターズ)」はもちろん日本でヒット。さらにノルウェーでは1位を記録し、スウェーデンでも唯一となるトップ10入りを果たしました。
Meja - All 'Bout The Money - YouTube
この勢いがもう少し続くかと思いましたが、3枚目のアルバムで大きな方向転換を行いこれが商業的な失敗をもたらします。既に日本でもスウェディッシュ・ポップのブームが落ち着いてしまっていた2001年、「Realitales(リアリテイルズ)」というアルバムをリリース。ヒッピー感を全面に打ち出したスタイルが受け入れられず、日本でもオリコンでトップ10入りは果たしたものの大きなセールスには結びつきませんでした。
Meja - Hippies In the 60's - YouTube
Mejaのその後の活動と現在
メイヤはスウェーデンで音楽活動を続けており、スタジオ・アルバムとしては2015年にリリースされた6枚目のスタジオ・アルバム「Stroboscope Sky(ストロボスコープ・スカイ)」が最新のリリースとなっていますが、2019年にはデビュー25周年を記念して配信限定(日本ではCDでリリース)のアルバム「Kozmic Surfer(コズミック・サーファー)」がリリースされています。2021年久しぶりのアルバムがリリースされる予定。2019年には来日公演を行っており、2020年には日本限定でその模様を収めたライヴアルバムもリリースされています。
③ Cloudberry Jam(クラウドベリー・ジャム)
Cloudberry Jam(クラウドベリー・ジャム)は5人組ポップ・バンド。1998年に解散するも2004年に3人体制で活動を再開しています。
90年代にヒットしたCloudberry Jam代表曲
クラウドベリー・ジャムの特徴は、日本でしか大きな商業的成果を果たしていないという点につきます。そのため海外サイトでもその情報は限定的。しかもバンドの代表曲が収録されているアルバムは自主制作によるリリースであり、渋谷クラブクアトロが運営するインディーズ・レーベル「クアトロ」からリリースされヒットするという異色のバンドでした。
代表作は1996年のアルバム「Providing the Atmosphere(邦題:雰囲気づくり)」。シングル「Nothing To Declare(ナッシング・トゥ・デクレア)」はラジオを中心にヒットしました。
Cloudberry Jam - Nothing To Declare - YouTube
そして3枚目となる次のアルバムでまたも方向転換を行います。「The Impossible Shuffle(インポッシブル・シャッフル)」というタイトルのアルバムは彼らが借りた物件をスタジオに変えて制作されました。ポップ要素はほぼなくなり、歪みの多いソウルフルとなりました。もちろん商業的成果はありませんでした。しかし今作、個人的にはこれまでで最もかっこいい作品に仕上がっていると感じており、未だにたまに聴くほどのアルバムです。なので少し贔屓的ではありますがアルバムから2曲ご紹介します。
Cloudberry Jam - A Song That Keeps Us Sane - YouTube
Cloudberry Jam - Day After Day - YouTube
そしてこのアルバムをリリースした翌年、ボーカルのJennie Medin(ジェニー・メディン)が脱退することで解散となります。ジェニーは別のバンドを組んだりソロアルバムをリリースしたりと活動を続け、その後2004年に再び再結成を果たしました。
Cloudberry Jamのその後の活動と現在
他のアーティストと大きく違うのは、日本では今でも人気があるという点。商業的な考え方ではなく根強いファンがいるため、楽曲制作やライブ活動などを継続しています。最新の作品は2015年のEP「We move like we are dancing」。
90年代スウェディッシュ・ポップブームの火付け役?
ご紹介した3組のうち、カーディガンズ、クラウドベリー・ジャムに共通しているのがTore Johansson(トーレ・ヨハンソン)。
1960年代と70年代のクラシックなレコーディングスタイルを好んでいた彼によってプロデュースされたカーディガンズがヒットしたことによって、90年代のスウェディッシュ・ポップブームに火がついたと言っても過言ではなさそうです。
スウェディッシュ・ポップという言葉は本来、スウェーデンのポップという意味で、この時期であればAce of Base(エイス・オブ・ベイス)なども含まれると思いますが、日本においての90年代のスウェディッシュ・ポップはあきらかにトーレ・ヨハンソンの世界観を表していると言ってもいいでしょう。
トーレ・ヨハンソンは日本でのブームによって日本人アーティストの楽曲プロデュースも行っています。
つまりは彼の世界観が日本でフィットし一大ブームとなったのが90年代のスウェディッシュ・ポップなのかもしれません。