イギリスが生んだ天才James Blake(ジェイムス・ブレイク)。
2年ぶりのアルバムとなる『Friends That Break Your Heart』は、彼にとっての到達点とも言えるコンセプトに溢れた傑作となっています。
近年は突き抜けたダンスミュージックのような楽曲が増えていた彼ですが、本作ではジェイムス・ブレイクらしさが全開に。
どこか陰鬱で物々しいのに、暖かさを感じざるを得ない本作をじっくりとレビューしていきましょう。
過言ではなく“最高傑作”と言えるワケ
本作『Friends That Break Your Heart』を一言で表現するなら、ジェイムス・ブレイクの集大成です。
ハッキリ言って最高傑作と言っても過言ではありません。
彼が評価される最大の理由である“独特のリズム感”と“悲哀を感じさせる雰囲気”がこれでもかとマッチしています。
James Blake - Coming Back ft. SZA - YouTube
正直言って聞きやすいアルバムではありません。
前作『Form』がポップで外向きなアルバムだったのを考えれば、今作でそのポップな傾向は強まると想像するのが普通です。
しかし実際はその逆でした。
彼は、アルバム制作するうえで一つのテーマに沿うことが多いです。
そこで今作のテーマですが「友人や家族の消失。自身が変化すること」について歌っています。
とテーマだけ聞くと恐ろしい感じがしますよね。
しかし楽曲を聞くと、どこか暖かさを感じたり陰鬱さだけで終わることがないようになっているのも今作の魅力であり、不思議なところです。
元々、彼の楽曲はクセが強く万人ウケするものはありません。
複雑に入り乱れた楽器の音や加工を重ねたボーカル、さらにはイマイチ盛り上がりどころが分かりにくかったり…。
逆に言えば、マニア向けのテイストだからこそ熱狂的なリスナーを獲得できたとも言えます。
本作もトリッキーな構造をした楽曲だらけです。
それなのに、彼のどの作品よりも親近感があって聞き入ってしまいます。
矛盾しているかもしれませんが、彼のアルバム史上一番複雑で、一番親しみやすいのです。
そして、この「矛盾」こそがジェイムス・ブレイクの集大成を言える所以です。
Friends That Break Your Heartのリード曲に全てが詰まっている
本作のリード曲でもある『Say What You Will』(意味:君が何と言おうとも)
ジェイムス自身のステータス変化と周りからの見られ方を歌った曲となっています。
この曲は、本作を一曲で表現したものと言えます。
James Blake - Say What You Will - YouTube
メロディーや雰囲気だけを聞けば、暗い感じがします。
しかし、堕ちていくような暗さは一切感じません。
むしろ最後には人の優しさに包まれたような暖かさを感じるでしょう。
そう、気持ちのいい矛盾が楽しめるようになっているのです。
「暗いのに暖かい」
「怖そうだけど優しい」
そんな感情にさせられるのは、自信の立場と共に変わりゆく周辺への戸惑いを歌うという普遍的なテーマが一因でもあります。
ですが、何よりも注目したいのが曲の構造です。
初期のジェイムスは自身の声も楽器の一部であるかのように加工をし、極力ボーカリストという面が出ないようにしていました。
ですが、本楽曲では持ち前の甘美な声をいかんなく聞かせてくれます。
極力声への加工はしないようにし、包み込むかのように語り掛けてくれる優しさを感じられるからこそ、前述したような“気持ちのいい矛盾”が生まれるのです。
『Say What You Will』を聞いて、少しでも琴線に触れる感覚を覚えた方ならば本アルバムは必ず心に残る作品となるでしょう。
本作『Friends That Break Your Heart』と前作『Form』にかけての変化
ジェイムス・ブレイクが2019年に発売したアルバム『Form』は、恋をしている喜びを暖かみのある楽曲で表現したような内容になっていました。
元々内向的な楽曲が評価されてきた彼にとって、前作は異質な作りであったと同時に重要な転換点とも言えるでしょう。
内向的な曲を期待した人にとって前作『Form』は、光が強すぎる印象を受けたかもしれません。
しかしながら、ひたすら哀愁を漂わせ自信なさげな少年がようやく外へ歩き出すなんてストーリーすら思い起こさせてくれる魅力が前作にはありました。
ところが2020年、彼だけでなく世界中にとって思わぬ障壁が立ちはだかります。
それは「コロナウイルスによる世界的なパンデミック」です。
強制的に閉鎖的な空間で過ごさざるを得なかった期間が彼にもたらした影響は強かったようで、インタビューでも以下のように語っています。
「ロックダウン中に書いた曲のほとんどが、友人や大切な人、そして自分をとりまく関係について歌うものになりました」
つまり、よりミニマムな世界観で曲作りをするようになったということです。
そしてパンデミックという閉鎖的な期間において、ミニマムな世界観は誰しもが共感できる感情へ変化しました。
ロックダウン中は、誰もがやり場のない怒りを感じると共に近しい人物の大切さを感じたはずです。
2019年より以前のジェイムス・ブレイクであれば、ロックダウン中の暗さ・やるせなさをテーマにしていたかもしれません。
しかし、前作で恋愛について語り尽くし外交的に大人へと進化した彼は違いました。
本作は、 “自分”と“近い距離にいる人たち”を徹底的なテーマとして歌っています。
だからこそアルバム全体を通して、親近感があって優しく暖かみのあるオーラを感じるのでしょう。
恋愛という甘酸っぱいものを歌いつくした青年は、次に周りの友人や家族の大切さを歌うようになったのです。
James Blake, slowthai - Funeral - YouTube
まとめ
ジェイムス・ブレイクに惹かれている方は、どうしても暗さや陰鬱さを期待してしまうかもしれません。
本作『Friends That Break Your Heart』には期待するような内省的部分はないです。
しかしながら、彼特有のダブステップは健在ですし、何より今までで一番優しいアルバムとなっています。
コロナ禍で疲れ切った現代だからこそ、突き抜けた明るさではなく寄り添うような優しさが染み入るのです。
■「Friends That Break Your Heart」トラックリスト
1. Famous Last Words
2. Life Is Not the Same
3. Coming Back (ft. SZA)
4. Funeral
5. Frozen (ft. JID and SwaVay)
6. I'm So Blessed You're Mine
7. Foot Forward
8. Show Me (ft. Monica Martin)
9. Say What You Will
10. Lost Angel Nights
11. Friends That Break Your Heart
12. If I'm Insecure