テイラー・スウィフトに学ぶ5つのマーケティング戦略

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洋楽コラム

Taylor Swift(テイラー・スウィフト)は2006年にデビュー・アルバムをリリースして以降、わずか16年で歴代でも高い実績を誇るアーティストのひとりとなりました。

楽曲そのものの評価の高さに加えて、ライヴ・パフォーマンスやセールスにおける側面など、マーケティング分野においても学ぶべきところが多くあります。

今回やビジネスにも役立つかもしれない、テイラー・スウィフトに学ぶマーケティング戦略と題してこれまでの活動から紐解いていこうと思います。

テイラー・スウィフトに学ぶ5つのマーケティング戦略

2022年現在の商業的な実績としては、全世界で2億枚以上のCD・レコードの売上を誇っており、『Fearless』、『1989』と2枚のアルバムが全世界1000万枚超えのセールスを記録。アメリカでは10枚のスタジオ・アルバムすべてが100万枚以上を売り上げており、最新作『Midnights』を除く9作品がアメリカレコード協会(RIAA)で100万枚のセールスに相当するプラチナ認定を受けています。※『Midnights』も100万枚を超えるセールスを記録していますが、投稿時点でRIAAからの認定は受けていません。

タイム誌では2010年、2015年、2019年に最も影響力のある100人に選出されたり、Forbes誌では2015年に最も影響力のある100人の女性のリストに含まれる最年少の女性となり、さらには「彼女の世代で最も多作で有名なアーティストの1人」としての彼女の作品と功績により、スウィフトはニューヨーク大学から名誉博士号を取得するなど、音楽での短期間での成功によって様々な分野でもフィーチャーされています。

多種多様な選択ができるようになった現代において、ここまで成功を収め続けられる秘訣とは何なのか。●つの視点から見ていきます。

① ブランドイメージの形成

テイラー・スウィフトは自身のブランディングを徹底することで、他のアーティストの差別化を図っているように見えます。

例えばわずか数年前まで「政治的な発言を一切しない」、またSpotifyやApple Musicが当たり前になりつつあった中で「ストリーミング解禁をしない」、など多くのアーティストが率先して行うようなことに対して、慎重な姿勢を貫きました。

特に発言については日本と違い、海外の多くのアーティストは積極的に発信します。

しかしテイラー・スウィフトは発言を控えることで純粋に自身の楽曲をより多くの人に聴いてもらえる環境を維持しました。ひとつの発言に対して同意する人もいれば反対する人もいることを十分に理解し、どちらの立場にも音楽を届けることができたわけです。

ただこれはテイラー・スウィフト本人の意思というよりは当時のレーベル側の運営方針の一環だったとの指摘もありますが、どちらにせよこの戦略は初期の商業的な成果に大きく貢献することになりました。

ブランドイメージはひとつの決断でその後のマーケティング戦略に大きな影響を及ぼします。

そういった意味では慎重な姿勢で世間の状況を理解しながら進めていくことがいいのかもしれません。

② 変化に対する柔軟な対応

一度成功したアーティストは自身のスタイルに固執しがちですが、テイラー・スウィフトはカントリー・ミュージシャンとしての成功からポップ思考へと大胆なシフトチェンジを図り成功しました。

これは音楽業界に限らずひとつの商品をしてみた時に一過性のものを繰り返すのか、時代を見て変化させていくのか、という側面では十分に参考となるべき動きだと思います。

「ファンをとにかく飽きさせないこと」と「自身が進みたい、やりたいこと」のバランスをとることで無理のない変化を起こせます。

もちろん変化についていけないファンもいて、実際大ヒットとなった『1989』ですが、一方でメディアにも叩かれるようになりますが、テイラー・スウィフトは『Reputation』をリリースすることで特にメディアに対して「誰にも文句は言わせない」と言わんばかりの強烈なインパクトを与えることでこの流れを大きく変えました。『Reputation』はポップ・アルバムでありながらもラッパーがゲスト参加するなど若干暴走気味にも思える洗練されたサウンドに進化を遂げ、多くのファンを味方につけました。

ここまでジャンルを変えていくアーティストはそういるものではありません。

ここで重要なのは、ポップ・アーティストが様々なジャンルに挑戦することよりもテイラー・スウィフトがカントリー・ミュージシャンとしてキャリアをスタートさせている点において、スタートから既に他のアーティストと差別化が図れていることにあります。

カントリーはアメリカでは長きにわたって安定した人気を誇るジャンルであるため、カントリー・ミュージシャンを目指す人もたくさんいます。テイラー・スウィフトの場合も同じですが、もちろんデビュー当時からジャンルを転向することになるとは思っていなかったように思います。

「現状を理解してブランドを再構築する」ことが成功維持の秘訣のひとつなのかもしれません。

③ ファンファーストな姿勢

テイラー・スウィフトはファンを大事にすることでも知られています。日本ではわかりにくいですが、アメリカでは細かくファンが喜ぶような企画を行っているようで、固定ファンの増加につなげています。

ビジネスにおいて一見当たり前なことですが、特に熱心なファンのために細かなサービスを怠らないのがテイラー・スウィフトのすごいところかもしれません。

④ 自身を売り出す力

これは自身を露出することで利益を上げるようなビジネスを行っている方は特に当たり前なことかもしれませんが、テイラー・スウィフトは自身の楽曲にプライベートと紐づく歌詞が印象的な曲を多く発表しています。

いわば半自伝的な要素が強くあるため、聴き手はテイラー・スウィフトの人生を辿ることができますが、そこに具体性はないため考察を生み、共感を生み、つながりを持てるようになります。

音楽は受け取り手の解釈ひとつで「パーソナライズ商品」となり得ますが、音楽以外であっても背景の見えるものが商品として重要で、自身を露出する必要がある場合は自身の背景、商品を直接販売する場合でもその商品の背景をいかにして顧客に共有できる形にするかが重要なのかもしれません。

⑤ 商品の再構築する力

テイラー・スウィフトと言えば、近年原盤権の問題から自身の過去の作品を再レコーディングし、「テイラーズ・バージョン」として再リリースしています。

過去の作品を再レコーディングして再リリースするケースで、テイラー・スウィフトほど成功したアーティストはいません。

テイラー・スウィフトはこのタイミングで大胆にも当時の未発表曲音源まで再レコーディングを行い『Fearless (Taylor’s Version)』にはデラックス盤込みで全27曲、『Red (Taylor’s Version)』は全30曲と大盤振る舞いとも言える曲数でリリースしました。またほんの一部分だけ歌詞を変えたりするなど、かつての音源に忠実でありながら変化を作り、見事再構築に成功しています。

過去に成功したヒット商品を再度発売する必要がある場合、こんなに参考になる事例はありません。

マーケティング戦略が最も成功した『Midnights』

さすがのテイラー・スウィフトと言えど、近年セールス面での落ち込みがありました。しかしそれは音楽業界全体の問題で、テイラー・スウィフトは今や100万枚を売り上げられる数少ないアーティストです。

そして2022年、かつてビッグヒットを飛ばした多くのアーティストが新作をリリースするも商業的な成果は得られず、ストリーミングに比重が傾く中で、『Midnights』は爆発的なセールスを遂げました。

既にビルボードのアルバムチャートでは200万ユニットを超えるセールスを挙げており、近年では全世界で550万枚を売り上げたAdele(アデル)『30』に続くセールスとなっています。

数字だけで言えばわずか1カ月弱で既に『Folklore』の全世界でのセールスを超える勢いで、CD・レコード・デジタルなどのセールスだけでは300万を超えるかもしれません。

編集部独自の視点でこの成功のポイントを挙げるとするならば、以下の4つ。

① サプライズに近いリリース

「テイラーズ・バージョン」の次の作品をほのめかす動きとしていくつかのシングル音源を公開していた中、多くのファンは『1989』のテイラーズ・バージョンが近くリリースされるのではないかと予想していました。

しかし2022年8月28日のMTVビデオ・ミュージック・アワードの受賞スピーチで新作アルバムをリリースすることを発表したことで大きな話題となりました。

多くのファンは次に来るのがテイラーズ・バージョンではなく新作アルバムであるという点も非常に影響を与えているように思います。

② 斬新すぎる手法

アルバムのトラックリストは一般的にSNSで発表するかYouTubeで公開動画を挙げるか、またはプレスリリースで公開するなどが多い中、テイラー・スウィフトはTikTokで毎日一曲ずつタイトルを公開するという斬新すぎる手法を取り入れました。

これは『Midnights Mayhem with Me』と題したシリーズとして、1から13までの番号が付けられた13個のピンポン玉が入ったくじかごが転がされ、ボールが落ちたとき、アルバムの対応するトラックのタイトルをコールするというもの。遊び心満載のこのコンテンツは人気を呼び、発売前のファンの購買欲を掻き立てました。

③ 発売日にデラックス盤をリリース

発売日にデラックス盤をデジタルのみでリリースするという手法はピップホップ・アーティストに多く見られる傾向がありますがテイラー・スウィフトはこれを実行。「3am Edition」と呼ばれるデラックス盤はデジタルセールスを大きく後押しする結果となりました。

④ 当然ながら曲がいい

過去2作品『Folklore』、『Evermore』でインディー・フォーク路線が続いたため、『1989』や『Lover』のようなシンセポップ路線への回帰なのに詞も曲も洗練された進化が高い評価を受けています。

特に「Anti-Hero」はここ数年で最も多くの国のチャートで長くヒットしていることからも、アルバムそのものの良さが大前提にあると言えそうです。

テイラー・スウィフトは十分すぎるほどビジネスを理解している

『Midnights』のプロモーションに共通しているのは「ファンへのサプライズ」だと思います。これぞファンファーストであり、喜ぶ仕掛けを随所にちりばめた結果が商業的成功につながっていると言えるかもしれません。

商品販売におけるマーケティング戦略としてはどれも当たり前すぎるものばかりとも言えますが、これらを柔軟に行える人は既に成功しているのではないでしょうか。

もしそうではない場合でも、何かしらの参考になればと思います。

WRITER

酒井裕紀

洋楽まっぷ管理者。米・英の音楽チャートなどのデータを好み、70年代から最新の洋楽までヒット曲なら幅広い知識を持つ。時代毎の良さがある洋楽の魅力を少しでもわかりやすくご紹介できればと思います。

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