
話題沸騰中のNetflixアニメーション『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』。
この映画のサウンドトラック・アルバムの人気の高さから、劇中に登場する3人組HUNTR/Xの「Golden」はK-POP史上初となる全米・全英両方のシングルチャートで1位を獲得しました。
さらに最新の米ビルボードホット100では「Golden」「Your Idol」「Soda Pop」「How It's Done」の4曲が同時トップ10入り。全英シングルチャートでも上限の3曲がトップ10入り、グローバル200では「What It Sounds Like」を含む5曲がトップ10入りするなど、記録尽くしとなっています。Netflix自身も「史上最も視聴された映画」の記録を更新したことを発表しており、まさに映画と音楽が同時に世界を席巻している状況です。
ここまでの人気を獲得できたのはなぜなのか。それは「映画と音楽の相乗効果」にあるのかもしれません。
今回は洋楽チャートを圧巻しているこれらの楽曲を検証していこうと思います。
制作背景と音楽のリアリティ
まず前提として、『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』は単なる韓国発信のアニメではありません。製作はソニー・ピクチャーズ アニメーション。ソウル生まれの韓国系カナダ人のマギー・カンと、米国人のクリス・アップルハンスによる共同監督によって制作されました。
音楽にはThe Black Labelのプロデューサーや、BTSの「Boy with Luv」「Butter」などを手掛けたヒットメーカーが参加。アメリカのソングライターなども含まれる韓国の音楽業界の第一線の人材を起用することで、本物のK-POPサウンドを作り上げたことが、信頼感を生み出しています。
映画と音楽の相乗効果
これまでも映画サウンドトラックが人気を集める例は多くありました。
ビルボードホット100でトップ10入りを果たしたサウンドトラック・アルバムの中で歴代最多となっているのが、1995年から1996年にかけて5曲がランクインした映画『ため息つかせて』のサウンドトラック・アルバム。
「Exhale (Shoop Shoop)(1位)」、「Sittin' Up in My Room(2位)」、「Not Gon' Cry(2位)」、「Count On Me(8位)」、「Let It Flow(1位)」がランクイン。また1996/2/7付から3週間、「Exhale (Shoop Shoop)」、「Not Gon' Cry」、「Sittin' Up in My Room」の3曲が同時トップ10入りという映画サウンドトラックから同時に複数楽曲がトップ10入りを果たしています。
しかし3曲同時トップ10入りはこれが初めてではなく、1978/3/25付から4週間、映画『サタデー・ナイト・フィーバー』のサウンドトラック・アルバムからビージーズの「Night Fever(1位)」、「Stayin' Alive(1位)」、イヴォンヌ・エリマンによる「If I Can't Have You(1位)」がホット100史上初の3曲同時トップ10入りを果たしています。
『ため息つかせて』のサウンドトラック・アルバムからは歴代最多5曲がトップ10入りを果たしましたが、同時にトップ10入りしたという観点では今回、『サタデー・ナイト・フィーバー』や『ため息つかせて』を上回る4曲同時のトップ10入りで、史上初の例を更新したことになります。
『サタデー・ナイト・フィーバー』のケースでは、ディスコが大衆文化への発展したという点で映画も音楽も大きく貢献しており、アルバムのヒットも後押しする形となりました。
『ため息つかせて』のケースでは、公開当初は映画とも連動していたものの、その後はむしろ音楽作品として独立してヒットを積み重ねた印象が強いです。
サウンドトラック・アルバムがヒットするというのは様々な形がありますが、『サタデー・ナイト・フィーバー』のケースは特殊で、『ため息つかせて』のように期間を空けながらラジオやMTVでプロモーションされ、シングル化されていったことがそれぞれの楽曲のヒットにつながるという構図が比較的多い印象があります。このように映画と切り離されて独自にヒットする事例が多いように思います。
一方で『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』は、Netflixで配信されてから約2カ月が経過しても映画の視聴は伸び続け、楽曲もチャートで勢いを保っています。映画がNetflixという配信プラットフォームで展開されているという点では過去のヒットの事例とは大きく異なります。
上記のような例を除けば、ほとんどのサウンドトラック・アルバムは劇場公開の期間が人気のピークになりやすいのに対し、『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』は配信作品であるが故に映画の人気が音楽に、音楽の人気が映画に返ってくる“相乗効果”を生み、長期的に人気を保ちやすい特性を得ました。実際に「視聴数が週を追って増加し雪だるま式に伸びた」という製作側のコメントも公開されており、この効果を裏付けています。
「映画を観て音楽を聴く」と「音楽を聴いて映画を観る」が繰り返されてどちらも再生され続けるというのは、商業的な観点で見てもこれまでになかった事例と言えるのではないでしょうか。
物語自体も「歌うことで戦う」「踊ることで戦う」という核となる要素で楽曲を使用しています。これは単に劇中で音楽が流れるのではなく、物語の推進力そのものが音楽になっていることを意味し、繰り返し視聴される強い動機につながっていると言ってもよさそうです。
ディズニー作品でも『アナと雪の女王』の「Let It Go」や『ミラベルと魔法だらけの家』の「We Don't Talk About Bruno」が繰り返し視聴され大ヒットしましたが、同じような現象がこの作品でも起こっているのかもしれません。
ファンダムの初動とバイラルの拡大
K-POPの特性として、熱心なファンがリリース直後から繰り返し楽曲を再生し、チャート初動を大きく押し上げる傾向があります。今回もその影響は少なくないと考えられます。
実際に「Golden」「Your Idol」「Soda Pop」「How It's Done」の4曲のリリック・ビデオは既に1億回を突破しており、まだ2ヶ月ほどしか経過してない点からも異例のスピードです。ストリーミングにおいてもグローバルチャートでは比較的早い段階から人気を集めていました。
Huntr/x: Ejae, Audrey Nuna and Rei Ami - Golden - YouTube
Saja Boys: Andrew Choi, Neckwav, Danny Chung, Kevin Woo, SamUIL Lee - Your Idol - YouTube
Saja Boys: Andrew Choi, Neckwav, Danny Chung, Kevin Woo, SamUIL Lee - Soda Pop - YouTube
Huntr/x: Ejae, Audrey Nuna and Rei Ami - How It's Done - YouTube
ただし「Golden」が全米・全英チャートで1位までのぼりつめることができたのは、それだけでは説明できません。映画をきっかけに作品世界から入った層、逆に音楽から作品を知った層、この2つの流れが互いにバイラルを加速させた可能性があります。
K-POPの全米首位はBTS、またはBTSのメンバー以外では初。全英首位は2012年にPSYが「江南スタイル」で首位を獲得して以来13年ぶり2度目の快挙となりました。しかしサウンドトラック・アルバムからの事例でいうと、2022年、ディズニー映画『ミラベルと魔法だらけの家』に収録されている「We Don't Talk About Bruno(邦題:秘密のブルーノ)」が両方のチャートで首位を獲得しており、『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』の楽曲においてもアニメーション作品特有の強さがあることも考えられます。
こうしたアニメーション作品由来のヒットは、通常のK-POPヒットとは異なる文脈に位置づけられるかもしれません。
またK-POPでありながら歌詞の8割以上は英語で歌われている点も、広く認知されるきっかけとして貢献しています。
つまり初動を支えたコアファンの存在と、その後に広く一般層へ浸透していった拡散の2段階が、この大ヒットの実態を形作っていると言えそうです。
楽曲ごとの魅力とSNS拡散
サウンドトラック・アルバムの収録曲はそれぞれが拡散性を意識したような特徴を持っています。「Golden」ではコーラスに誰もが挑戦したくなるハイトーン、「Soda Pop」は気軽に踊れる軽快で爽やかなサウンドに仕上げられています。どちらもTikTokなどで拡散されやすそうなサウンドなのが想像できます。
実際に「Golden」は素人によるカバーが急増し、やがてプロのシンガーまでもがカバーする流れに。「Soda Pop」もダンス動画が人気を得るなど、SNSでの広がりが映画の勢いをさらに加速させました。またSaja Boysは、パンデミック期に世界的成功を収めた2020年頃のBTSにインスパイアされた5人組キャラクターとされており、その存在自体が観客の共感や話題性を呼ぶ仕掛けになっています。
さらに注目すべきは、これらの曲がいわゆる“洋楽ポップの王道ヒットの法則”を踏襲している点です。短めの曲尺、シンプルに繰り返されるコード進行、Aメロ・Bメロをコンパクトにまとめてサビで一気に盛り上げる構成など、バイラル化しやすい作りになっています。ショート動画で切り取られても成立するような楽曲設計は、意図的かは別としてグローバルヒットに直結しやすい仕組みといえます。
制作者の証言が裏付けるヒットの必然性
ルミ役の歌唱を担当し「Golden」の制作にも携わったソウル出身で現在はアメリカに住んでいるアーティストEJAEは、TIME誌のインタビューでこう語っています。
「曲作りの焦点は、グループのキャラクター性に合うように整え、耳に残るフックを作り、幅広い聴衆に響くコンセプトを築くことに移ります。」
また「Golden」については次のように明かしています。「Goldenのメロディーは驚くほど早く浮かび、曲作りを通して自分の声域を発見できました。あの曲でA5を歌えたことには驚きと誇りを感じています。」
実際に高音域に挑戦するカバー動画が次々と登場しており、こうした“挑戦したくなる要素”もヒットの一因と考えられます。
まとめ
以上をまとめると、この成功は偶然ではなく設計された必然だと言えます。子供でも楽しめるアクション要素、大人も満足できる本格的な音楽制作陣、SNS拡散を見据えたK-POP軸のキャッチーな楽曲構成、物語と音楽を融合させるストーリー設計。これらすべてが組み合わさることで、映画も音楽も同時に世界的ヒットを遂げました。
Netflixは公式に視聴者層を公表していませんが、「子供たち」や「K-POPファン」が人気の下地を作っていると考えられます。
その人気はもうしばらく続きそうです。
洋楽チャートを圧巻しているため取り上げてみましたが、映画と音楽のどちらの業界にもインパクトを与えることに成功した『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』。
実写化や続編の話も出ているようなので、今後も映画業界、音楽業界にインパクトを与える可能性があるかもしれません。
参考情報
・How KPop Demon Hunters Conquered the World
・‘KPop Demon Hunters’ Directors on How They Did It — And Made Netflix History
■楽曲リンク
・Various Artists
→『KPop Demon Hunters (Soundtrack from the Netflix Film)』