
ここ数年、洋楽シーンでは男性ソロアーティストの活躍が目覚ましいものとなっています。シャブージー、テディ・スウィムズ、ベンソン・ブーン、アレックス・ウォーレン、ソンバー…。彼らはいずれも、1曲で世間の注目を集めるような大ヒットを放ちながら、そのまま一発屋で終わることなく、今なお多くのファンを惹きつけ続けています。なぜ彼らは1曲のバズで終わらず、人気を維持できているのでしょうか。
まず、彼らにはデビュー当初から強い個性と背景にある物語が備わっていました。たとえばシャブージーは、カントリーとヒップホップという異なるジャンルを融合させた独自の音楽スタイルで注目を集めました。代表曲「Let It Burn」では、アメリカ南部の空気感と都会的な感性が同居し、TikTokを中心に一気に若年層の支持を得ました。
そんな注目を集め始めていたタイミングで、ビヨンセのアルバム『Cowboy Carter』で2曲もゲスト参加したことでアメリカだけではなく世界的にも知名度を一気に上げることに成功。そこで行ったのが現在も大ヒット中のシングル「A Bar Song (Tipsy)」のリリースを予定より早めたこと。これが戦略的にも見毎にハマり大成功となりました。
しかしここまでの成功の背景には、単なる話題性ではなく、彼自身のルーツやリアルな生き様があったことが大きいといえるかもしれません。
Shaboozey - A Bar Song (Tipsy) - YouTube
テディ・スウィムズは、ジャンルの枠に収まらない自由な表現力を持ったシンガーです。ソウル、R&B、ロック、バラードまで幅広く歌いこなし、その歌声には時代を超えた普遍的な魅力があります。大柄な体にタトゥーという見た目と、繊細で感情豊かな歌声とのギャップも話題となり、YouTubeをはじめとする動画プラットフォームで高い評価を得ました。デビュー以降も誠実に音楽と向き合い、ライヴ・パフォーマンスの実力でも信頼を重ねてきました。
2023年6月にリリースされた「Lose Control」は、キャッチーでありながらもブルースやソウルミュージックもルーツとしながら圧倒的な歌唱力で多くの国で少しずつ注目を集め始めました。
Teddy Swims - Lose Control - YouTube
ベンソン・ブーンはTikTok出身の新世代アーティストとして知られていますが、実は「Beautiful Things」が世界的に大ヒットする以前から、すでに一定の知名度を持っていました。オーディション番組『アメリカン・アイドル』への出演をきっかけに注目され、その後にリリースしたデビュー曲「Ghost Town」はスマッシュヒットを記録しています。彼の成功はビジュアルや声質だけでは語れず、楽曲の背景にある繊細な感情表現が鍵となっています。「In the Stars」では、別れや喪失といった深い感情を率直に歌い上げ、多くの共感を呼びました。自身の弱さや不安を恐れずに表現する姿勢が、SNS時代のリスナーに強く響いているのです。その誠実な表現力と継続的な成長が、ベンソン・ブーンを単なる一発屋では終わらせなかった理由といえるでしょう。
そんな中でこれまでのスタンスとは異なるイメージとなった「Beautiful Things」が多くの共感を呼び、世界的ヒットに繋げました。彼は自分の弱さや不安を恐れずに歌に乗せることで、SNS時代におけるリスナーとの距離の近さを武器にしています。その素直な姿勢が、熱量の高いファンを生み出していると言えそうです。
Benson Boone - Beautiful Things - YouTube
アレックス・ウォーレンはもともとの知名度も人気を得るきっかけのひとつになっています。彼の強みは、映像制作で培ったストーリーテリングの力をそのまま楽曲に活かしている点です。日常の葛藤や恋愛感情を等身大の言葉で描いた楽曲は、派手さこそ控えめですが、若年層の共感を得るには十分なリアリティを持っています。「Ordinary」は世界的で愛され、多くの国で1位を獲得。遂にビルボードホット100でも首位を獲得しました。リスナーにとって「身近な存在」であることが人気に直結していると言えます。
Alex Warren - Ordinary - YouTube
そして今注目のソンバー。世界観の作り込みにおいて群を抜いています。ビジュアル、楽曲、アートワークのすべてに統一感があり、まるで一本の映画を観ているかのような没入感を与えてくれます。歌詞は説明的ではなく余白を持たせており、それが逆に深い余韻を残します。一聴して理解しやすいタイプではありませんが、その“わかりにくさ”こそがコアなファン層を形成し、持続的な支持へとつながっているのです。
彼らにアーティストたちに共通しているのは、飾らない自分自身を見せながらも、しっかりと“魅せる表現”ができている点にあると言えます。完璧なパフォーマンスではなく、時に不器用で、時に葛藤を抱えたままの姿をさらけ出すことで、リスナーは彼らに親しみを感じ、応援したくなるのだと思います。
また、彼らの多くは最初のヒットを“終着点”ではなく、“スタートライン”として捉えています。その後のリリースでも新たな一面を見せたり、既存のスタイルを進化させたりと、リスナーに「次は何を届けてくれるのだろう」と期待させる姿勢が共通しています。
音楽業界では、TikTokの影響もあって瞬間的なバイラルも多く起こるようになりました。単にデータだけの話をすると、「最近男性アーティストのヒットが多い」と感じられる背景には、TikTokなどで目にするそもそものアーティスト数の性別比率が偏っている(男性の方が多い)ことと、TikTok中心にヒットが生まれやすいアルゴリズム的構造によって男性アーティストの曲を耳にする機会が多いことが影響しているかもしれません。
しかし結果的に男性アーティストが多い傾向にあるというだけでそこに直接的な理由があるわけではないと感じます。その中で生き残るのは、単にヒットを出す人ではなく、「人間そのもの」に魅力があるアーティストなのではないでしょうか。シャブージー、テディ・スウィムズ、ベンソン・ブーン、アレックス・ウォーレン、そしてソンバー。
彼らが一発屋に終わっていない理由は、「楽曲だけでなく、その背後にある生き方や価値観、ファンとの向き合い方から見える彼らの真の魅力」にありそうです。
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