クイーン「Greatest Hits」700万枚突破の一方でエルトン・ジョンは不満?イギリスの音楽事情とは?

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洋楽コラム

先週、イギリスのオフィシャル・チャート・カンパニーは、1981年にリリースされたQueen(クイーン)のコンピレーション・アルバム『Greatest Hits(グレイテスト・ヒッツ)』が全英チャート史上初となる700万枚のセールスを突破したことを発表しました。これはフィジカル(CDやレコード、カセットなどの現物商品)以外にもダウンロードやストリーミングの概算数も含まれた数字ではありますが、歴代1位のセールスとして認定されています。

昨年、ABBA(アバ)のコンピレーション・アルバム『Gold: Greatest Hits(ゴールド)』が600万枚を突破しましたが、『Greatest Hits』は2014年に600万枚を達成し、そこから8年かけてさらに100万枚相当のセールスが上乗せされた形となり、今のイギリスの人口に換算すると約10人に1人が保有している計算となります。

この一方でElton John(エルトン・ジョン)はイギリスのミュージック・ウィーク誌で行われた作家のニール・ドハティとのインタビューで、シングルやアルバムのチャート、さらには現代の音楽業界、彼の経営陣、ブレクジット、デュア・リパ、そしてツアーへの長い別れについて多くのことを語っています。

エルトン・ジョンは今の全英チャートについて、「ケイト・ブッシュが1位になっているのを見るのは素晴らしいことだが、トップ20には良いレコードがあまりない。アルバムチャートには、私、ABBA、クイーンなどがたくさんいて、サム・フェンダーやハリー・スタイルズのように新しいアーティストが3位にやって来ても、80位以下に姿を消していく。フアニータ・エウカ、シャロン・ヴァン・エッテン、エンジェル・オルセンなど、アルバムチャートに含める価値のある優れたアルバムがたくさんあるのに。私が知りたいのは、なぜ彼らがそこにいないのかということ。それは私のような人たちがいるからだ!」と自分たちのせいで次世代アーティストがチャートを維持できないようなコメントを残しました。

実際のところ最新のアルバムチャートでは、1000週以上もランクインしているクイーンの『Greatest Hits』が8位、同じく1000週以上もランクインしているABBAの『Gold: Greatest Hits』が15位、エルトン・ジョンも245週目のチャート入りを果たした『DIAMONDS』が19位にランクインしています。他にも旧作と呼べるもので言えばFleetwood Mac(フリートウッド・マック)の『50 Years – Don’t Stop』が13位、Oasis(オアシス)の『TIME FLIES – 1994-2009』が20位と旧作が並びます。

ただエルトン・ジョンの言う通り誰もがそのような結果になっているわけではなく、ジョージ・エズラやサム・フェンダー、そしてハリー・スタイルズは今の全英チャートを盛り上げています。

YouTubeGeorge Ezra – Green Green Grass – YouTube

YouTubeSam Fender – Seventeen Going Under – YouTube

YouTubeHarry Styles – As It Was – YouTube

その一方で初登場で上位にランクインするバンドやアーティストがいても、翌週には大きくランクダウンする傾向が高いのはたしかで、ロングヒットに結び付く作品はごくわずかです。これはイギリスに限った話ではありませんが、ここまで旧作が上位にランクインし続けるのもイギリスの特徴のようにも感じ取れます。アメリカのビルボードチャートでも旧作が長くランクインすることはありますが、トップ40に滞在し続けるケースはかなり稀。

近年TikTokをきっかけに新たな世代が旧作を聞く機会も多いのはたしかですが、イギリスの場合はこれに限らず旧作が売れ続ける傾向があり、ここには様々な理由が含まれているように思います。

まずはイギリスだけの市場規模では今のストリーミング時代での収益性の少なさが次世代アーティストの人気獲得領域を狭めてしまっているのではないかという点。

エド・シーランやデュア・リパでさえストリーミング主流の今、セールスが伸び悩むことを気にしています。つまりアメリカでもヒットさせているアーティストたちがこの状態では次世代アーティストがどうしても活動しにくくなっている現状も考えられます。

そしてCOVID-19パンデミックの影響は大きく、イギリスの音楽団体UK Musicが昨年公開したレポートによると、2019年時のイギリス音楽業界には、音楽販売やライセンス、グッズやライブなどにより、58億ポンド分の経済価値があったといいます。2019年12月平均、1ポンド143円で換算すると8294億円。しかし、コロナ禍の昨年は31億ポンドにまで下落。これを2020年12月平均、1ポンド140円で換算すると4340億円。音楽業界の雇用人数も過去最高だった2019年の19万7000人から2020年は12万8000人へと35%減少したと推定されています。

昨年のデータはまだ公開されていませんが、イギリスの音楽業界の実態としてはかなり厳しい状況にあることがわかります。

そしてTikTokきっかけで人気となった場合でも回転が速くすぐに廃れてしまいやすいという点。イギリスは世界の音楽市場の中でも3本の指に入る市場ではありますが、こういった影響を加味すると新たな才能がなかなか世に出ないというのもわかる気がします。

そして昨今のレコード、いわゆるビニール盤の人気再燃における旧作セールス増によって、余計に旧作に目が向けられやすくなっている点も、次世代アーティストが登場しにくい環境になっているひとつとしてあげられるかもしれません。旧作ではないビニール盤のセールスが好調なのはイギリスのアーティストではエド・シーランやアデル、ハリー・スタイルズだけ。

反対にひとたび成功すれば世界的ヒットを連発できるほどのアーティストとなるのもイギリス出身アーティストの特徴ではありますが、誰もがこの領域にまで達するわけではありません。

そういった意味ではこの状況で成功を収めているアーティストは才能に加えて販売戦略にも長けているのがわかります。これは自身の戦略によるものか、レーベルの戦略によるものかはそれぞれだと思いますが、それでいても旧作が強いという事実は変わりません。

クイーンの場合はAdam Lambert(アダム・ランバート)を迎えてライヴを続けている点、ABBAも昨年復活を果たし話題性が継続している点などを考えると長く売れ続ける理由のひとつと捉えることができなくもないですが、それでもトップ10入りするほど人気を得られるものかと考えると、日本に置き換えて考える限りは難しそうです。

エルトン・ジョンはあくまで次世代のアーティストがチャートを席捲するのが自然な時代の流れのはずなのにそうはなっていない現実に対してコメントしているようにも思います。

若い世代のファンを獲得して売れるのは嬉しい反面、次世代のアーティストがチャートに現れないという意味での寂しさのような感情もあるのかもしれません。

■全英アルバム歴代売り上げトップ10
1. Greatest Hits (1981) / Queen 700万枚
2. Gold: Greatest Hits (1992) / ABBA 600万枚
3. Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (1967) / The Beatles 534万枚
4. 21 (2011) / Adele 529万枚
5. (What’s the Story) Morning Glory? (1995) / Oasis 494万枚
6. Thriller (1982) / Michael Jackson 447万枚
7. The Dark Side of the Moon (1973) / Pink Floyd 447万枚
8. Brothers in Arms (1985) / Dire Straits 435万枚
9. Bad (1987) / Michael Jackson 414万枚
10. Greatest Hits II (1991) / Queen 399万枚

■全英アルバムトップ100歴代最長ランクイン記録上位10作品
1. Greatest Hits (1981) / Queen 1324週
2. Gold: Greatest Hits (1992) / ABBA 1061週
3. Legend (1984) / Bob Marley and the Wailers 1039週
4. Rumours (1977) / Fleetwood Mac 950週
5. Number Ones (2003) / Michael Jackson 557週
6. (What’s the Story) Morning Glory? (1995) / Oasis 550週
7. The Dark Side of the Moon (1973) / Pink Floyd 544週
8. Bat Out of Hell (1978) / Meat Loaf 530週
9. Back to Black (2006) / Amy Winehouse 2006 524週
10. Curtain Call: The Hits (2005) / Eminem 2005 523週
※オフィシャル・チャート・カンパニーに限らず1956年7月以降、イギリスで主要に取り扱われたチャートの総合値となっています。

参考情報:Exclusive: Elton John speaks out on the charts, Brexit & why women are making the best music in 2022
参考情報:List of albums which have spent the most weeks on the UK Albums Chart
参考情報:This Is Music 2021

WRITER

酒井裕紀

洋楽まっぷ管理者。米・英の音楽チャートなどのデータを好み、70年代から最新の洋楽までヒット曲なら幅広い知識を持つ。時代毎の良さがある洋楽の魅力を少しでもわかりやすくご紹介できればと思います。

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