毎週のように大量の新曲がリリースされている一方で、数年前、時には数十年前の楽曲が突然ストリーミングを伸ばし、最新曲と並んでチャートへ入る光景も珍しくなくなりました。
代表的なところで言えばKate Bush(ケイト・ブッシュ)の「Running Up That Hill」がドラマ『ストレンジャー・シングス』をきっかけに発売から37年後に全英1位を獲得し、Sophie Ellis-Bextor(ソフィー・エリス・ベクスター)の「Murder on the Dancefloor」が映画『Saltburn』によって22年ぶりに全英トップ10へ戻るなど、映像作品から旧曲が再評価されるなどの事例によって、ドラマをきっかけにリバイバルヒットとなる楽曲も出てきています。
旧曲のリバイバルヒットはもはやTikTokの影響だけではなく、映画、ドラマ、ドキュメンタリー、広告、ゲーム、SNSなど、楽曲が再発見される入口そのものが増えているのが現状です。
現在の洋楽市場では、発売された時期に関係なく、過去の曲が新曲と同じ場所で競争できるようになっています。
発売日が、曲の鮮度を決めなくなった
CDやレコードが音楽消費の中心だった時代には、新作が店頭で大きく扱われる期間は限られていました。発売から時間が経った作品は棚の奥へ移り、廃盤になれば、興味を持っても簡単には聴けませんでした。
しかし今ではストリーミングの影響によって、昨日公開された新曲も、40年前に発売された曲も、同じ検索画面からすぐに再生できます。曲が古くなったから販売場所から消えるという考え方そのものが、ほぼなくなりました。
業界では一般に、発売から18カ月以上経過した作品を「カタログ」として分類します。ルミネイトの集計では、2023年上半期の米国オンデマンド・オーディオストリーミングのうち、カタログ作品が約73.6%を占めていました。ロックでは、その比率が約89.8%に達しています。
さらに2026年には、Spotifyで1月から4月に再生された楽曲の約3分の1が10年以上前の作品で、約6分の1は20年以上前の曲だったと報じられています。Michael Jackson(マイケル・ジャクソン)の「Billie Jean」のように、映画公開などの新しい出来事をきっかけとして、数十年前の曲が再び世界的な再生ランキングの上位へ進むケースも出ています。
一方で、配信サービスには2025年だけでも毎日10万曲を超える新しい楽曲が届けられていました。リスナーが聴ける曲が増え続けるほど、新曲一曲あたりが注目を得ることは難しくなります。
新曲は、同じ時期に発表された作品だけと競っているのではありません。すでに何十年もの実績を持つ名曲や、誰もが知っているヒット曲とも、同じプレイリストや短い動画の中で競うことになります。
旧曲が以前より強くなったというよりも、新曲だけが優先的に注目される仕組みが弱くなったと考えた方が近いかもしれません。
映画、ドラマ、SNSが曲に新しい物語を与える
旧曲の再ヒットで重要なのは、楽曲そのものが変わったわけではないことです。変わるのは、その曲が使われる場面と、リスナーが曲に出会うときの物語です。
ケイト・ブッシュの「Running Up That Hill」は、1985年の発売時にも全英3位を記録したヒット曲でした。しかし『ストレンジャー・シングス』では、登場人物の感情や物語と深く結びついた曲として使われました。
その結果、原曲を知らなかった若い視聴者にとっても、単なる1980年代のヒット曲ではなく、ドラマの重要な場面を象徴する音楽になりました。そこからストリーミングやSNSへ広がり、発売から37年後に全英1位へ到達しています。
Kate Bush - Running Up That Hill - YouTube
「Murder on the Dancefloor」も同様です。映画『Saltburn』の印象的な終盤で使われたことで、2001年のダンス・ポップが新しい映像と結びつきました。その後、映画の場面やダンスがSNS上で共有され、曲は全英チャートで当時と同じ最高2位まで再上昇しました。
Sophie Ellis-Bextor - Murder On The Dancefloor - YouTube
ここでは、映画とSNSのどちらが原因だったかを一つに決めることはできません。映像作品が曲に新しい意味を与え、その場面をSNSが拡散し、最終的にストリーミングへ人を送り込むという連鎖が起きています。
2025年には、Goo Goo Dolls(グー・グー・ドールズ)が1998年に発表した「Iris」が大規模なリバイバルを見せました。2024年公開の映画『デッドプール&ウルヴァリン』で使用されたことに加え、その後はショート動画でも広く使われるようになり、複数の入口から新しい世代へ浸透しました。その結果、「Iris」は1970年代から1990年代に発表された楽曲の中で、2025年に最もストリーミングされた曲となり、英国の年間シングルランキングでも28位に入りました。映画への起用が曲を再提示し、SNSがその勢いを長く広げた例といえます。
Goo Goo Dolls - Iris - YouTube
Fleetwood Mac(フリートウッド・マック)の「Dreams」は、一人の利用者が投稿した動画から旧曲が再びヒットする可能性を示した代表例です。2020年、インフルエンサーのNathan Apodaca(ネイサン・アポダカ)がクランベリージュースを飲みながらスケートボードで走るTikTok動画に、1977年発表の同曲を使用しました。力の抜けた映像と「Dreams」の穏やかな雰囲気が重なって動画が世界的に拡散すると、英国では週間チャートセールスが60%増加し、ダウンロードは前週比341%増を記録しました。その後、同曲は1977年以来初めて全英Top 40へ復帰しています。新しい映像が曲に別の空気や物語を与え、数十年前の作品を現役のヒット曲へ戻した例です。
Fleetwood Mac - Dreams - YouTube
また、個別の曲だけでなく、ドキュメンタリーによってアーティストの過去作品全体が聴き直されることもあります。ルミネイトによると、2025年にはNetflixのドキュメンタリー公開後、Led Zeppelin(レッド・ツェッペリン)のカタログ再生が継続的に16%上昇しました。
いまや楽曲は、発売日に一度だけ評価される商品ではありません。別の作品や文化的な出来事と結びつくたびに、何度でも再発売されたような状態を作れると言っても決して大げさではありません。
旧曲が強い時代に、新曲はどう売れていくのか
旧曲が繰り返し再発見されることは、音楽ファンにとっては歓迎すべき変化です。生まれる前に発表された曲にも簡単に出会え、昔のヒット曲と最新曲を区別せず、自分のプレイリストへ並べられます。
若いリスナーにとって初めて聴いた日が、その人にとっての新曲になるため、その曲が何年に発売されたかは、必ずしも重要ではありません。
その一方で、新人アーティストや新曲にとっては、競争相手が大幅に増えました。毎日公開される膨大な新作だけでなく、巨大なカタログとも、限られた再生時間を奪い合うことになります。
レコード会社にとっても、すでに知名度があり、権利を保有している旧曲は扱いやすい資産です。映画やドラマへの使用、記念盤、リミックス、ドキュメンタリー、SNS企画などを通じて、比較的低いリスクで再び収益を生み出せます。
ただ当然ながらこれによって新曲が必要なくなるわけではありません。現在カタログとして聴かれている曲も、かつては新曲として世に出て、時間をかけて支持を蓄積した作品です。未来の旧曲を作るためには、現在の新しい音楽へ投資し続ける必要があります。
変わったのは、ヒットが生まれる順番です。
以前は、曲を発売し、ラジオやテレビで宣伝し、チャートへ入り、その後に映画や広告で再利用される流れが一般的でした。現在は、ドラマの一場面や15秒の動画から古い曲が見つかり、そこからストリーミング、チャート、ラジオへ逆流することがあります。
ルミネイトも2025年の音楽市場について、発見の経路はもはや直線的ではなく、映画、テレビ、ゲームなど複数の場所にまたがることがヒットの重要な条件になったと分析しています。
「新曲より旧曲が強い」という現象は、単なる懐古ブームではなくなりました。ストリーミングによって発売年の壁がなくなり、映画やドラマが曲へ新しい物語を与え、SNSがその場面を世界へ広げるようになったことで、音楽は発売時に一度だけ勝負するものではなく、何年後でも再び評価される可能性を持つようになっています。
新曲と旧曲の境界が消え始めた現在、リスナーが選んでいるのは「新しい音楽」か「昔の音楽」かよりも、その瞬間の自分にとって、新しく感じられる音楽なのかもしれません。
